札幌地方裁判所 昭和62年(わ)291号 判決
本籍
北海道虻田郡倶知安町北二条西一丁目三番地
住居
同郡同南町四条西三丁目四五番地八
会社役員
針ケ谷好司
昭和七年九月一六日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官成川毅及び弁護人(私選)日浦力各出席のうえ審議して、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一〇月及び罰金一、〇〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二万五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、肩書住居地を住所にしているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、昭和六〇年一二月二〇日ころ、自己所有の千葉県野田市尾崎字堂山二四〇番一及び同所二四二番の二筆の雑種地(登記簿上の地積合計二、九三七平方メートル)を有限会社筑紫産業(代表取締役遠藤廣章)に売買代金一億九、〇〇〇万円で譲渡した際、その代金額を七、一〇〇万円として売買契約書等を作成するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六〇年分の実際所得金額が一億六、九八八万九、一九五円であったにもかかわらず、昭和六一年三月一二日、北海道虻田郡倶知安町南四条西二丁目二番地所在の所轄倶知安税務署において、同税務署長に対し、昭和六〇年の自己の所得金額が五、六三一万三、五八五円であり、これに対する所得税額が一、一九〇万二、〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同月一五日を徒過させ、もって右不正の行為により同年分の所得税額四、七五九万五、四〇〇円と右申告税額との差額三、五六九万三、四〇〇円を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書(二通)
一 被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書(七通)
一 遠藤廣章(二通)、中谷照道及び千秋薫の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 大蔵事務官作成の調査事績報告書五通
一 登記官作成の土地登記簿謄本二通(野田市尾崎字堂山二四〇番一及び同二四二番一の土地に関するもの)
一 間中明作成の答申書
一 押収してある所得税確定申告書一綴(昭和六二年押第六九号の1)
(法例の適用)
被告人の判示所為は所得税法二三八条一項に該当するところ、所定の懲役と罰金を併科し、なお情状により同条二項を適用し、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金一、〇〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二万五、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、自己の所有土地を売却した被告人が、所得税を免れようと企て、買主と通謀して実際の売却価額より一億一、九〇〇万円も低い額で同土地を売却したかのように仮装し、その旨記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出することにより、三、五六九万円余の所得税を免れたという事案である。
本件ほ脱税額は判示したとおり多額である上、そのほ脱税率も約七五パーセントという高率であり、またほ脱の態様も、当初から土地の売却価額を少なく仮装して所得税を免れることを意図して、買主と通謀の上、虚偽の売買契約書を作成刷るなど計画的であり、悪質というほかなく、加えて被告人は、以前にも自己所有の本件とは別の土地を売却した際に、その所得額を過少に申告して所得税を免れたことがあり、その点からみても犯情は良くない。そもそも納税は国民の義務であり、それを不正に免れた被告人の行為は、税負担の公平を害し、租税制度に対する国民の信頼を失わせるなど強い非難に値するものであり、以上によれば被告人の本件刑事責任は軽視を許されないものがある。
しかしながら他方、被告人は本件所得税のほ脱が発覚した後合計六、五四一万円余にのぼる重加算税等を納付し、すでに税法上の制裁措置を受けていること。被告人には前科、前歴がなく、かつ本件犯行を反省していること等、被告人に有利な情状もあるので、これらの事情を総合考慮して、被告人に対してはその懲役刑の執行を猶予するのを相当と認めた次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑 懲役一〇月 罰金一、二〇〇万円)
(裁判長裁判官 鈴木勝利 裁判官 江藤正也 裁判官 栗原壮太)